「姫様、
寝ぎたなく上掛けをかぶっていた
「たいへんおめでたいことですわね」侍女の中で一番の古参である
「あの兄は、いったい何人の妃を持てば気が済むのかしら」桃生はいらいらと言った。「遠征に行くたびに妃が増えていくではないの。それで、兄様はいつ戻ってくるの」
起きあがった桃生をつかまえて、和可女はすばやく着替えをさせた。帯壬からの便りはその帰還を知らせるものであり、妃のことはほんの片隅にしかつけ加えられていなかったのだが、それをあえて持ち出すところが、さすがに侍女の古強者だった。桃生の性格をよく心得ている。
「あと
「そう」桃生はいらだちを抑え、平静になろうとした。和可女の術にはまり、まんまと心地よい寝床から追い立てられてしまった。
「どこの姫なの? 新しい妃になったというのは」
「国麻呂様のところの末姫ですわ」和可女は早くも朝餉の準備に移っており、桃生のそばに寄ってきたのはまだ娘と言ってよい侍女たちだった。
「国麻呂? 聞いたことがないわ」
「そうでございましょうとも。鄙びた土地の、ろくに財もありはしない貧しい里長ですもの」侍女たちの口調に非難がありありと込められていた。「その祖先は、あろうことか上様を軽んじ、謀反を企てたことがあるとか。今だって、異教を信仰しているという噂がありますのよ」
今は日継ぎの御子としてあり、やがて
帯壬は、まほろばにある自分の宮に、すでに十人以上もの妃を迎えている。桃生が眉をひそめるのはもっともで、世間ではとうの昔に女好きの悪評が立っている。
「兄様には、身を慎んでいただきたいわ。
「胸中お察しいたしますわ、姫様」
侍女らは口をそろえて言ったが、それが建て前であることを、桃生はちゃんと見抜いて聞き流した。もし帯壬の妃になれるものならば、彼女らは何の犠牲も厭わないに違いない。無力な姫御子がどう思うかなど、どうでもいいに決まっている。
(この前、印南の姫を娶られたときに、もう妃は増やさないでと兄様にお願いしたのに。まるで聞いていないんだから)今度こそ次がないようにさせなくてはいけないと、桃生はかたく決意した。
桃生自身は気づいておらず、彼女以外の者はみな気づいていることだが、桃生はたいへん帯壬を好いていた。いらだちのすべては若い侍女たちと同じ、嫉妬心からくるものだった。身内の好色なふるまいが恥ずかしいのは嘘ではないが、そのためにあれこれと骨を折ろうとするほど、桃生は外聞を気にしなかったし、繊細でもなかった。
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