「
大鷹は青年の顔に理解が浮かぶのを待っていた。けれど、いつまで経ってもその兆しはあらわれず、青年は強ばった顔つきで奇妙な男を見つめ返している。
「おい。そんなおびえた目をするな。いくらわしでも傷つく」男は弱った気色で頭をかいた。「覚えておらぬのか? 明吉良、わしだぞ。幼いおぬしとよく遊んでやったではないか――まあ、おぬしがまだ三つのときの話だからな。覚えておらぬのも無理はないか」
すると、淡い瞳に映る戸惑いはそのままだったが、明吉良は関心を惹かれたように大鷹を見上げた。そのようすを見てとり、大鷹は熊のような顔をほころばせた。
「道すがら、話すとしようではないか。今は時間がないからな。行くぞ」
部屋から回廊へ出ても、やはり真っ暗闇だった。しかし、大鷹は太陽の下と変わらない歩みで進んでいく。明吉良もたいして苦労せずについていくことができた。
大鷹は侵入者でありながら、まるで宮廷人であるかのように堂々としていた。彼は宮廷風の装いを整えており、そう簡単に暴かれる恐れはないのだろうが、それにしても大胆不敵だった。皓々と照らす
明るさの中で見えた大鷹は、肩幅のがっちりとした偉丈夫だった。背は仰ぎ見るほどに高く、かたわらを歩く明吉良がまるで子どものように見える。大鷹は機嫌良くしゃべっていた。
「大和での生活はどうだった、明吉良。これだけの歳月が経つまで何の手も打てず、おぬしを助けられなかったこと、沙流殿はたいそう悔やんでおられる。間もなく面会するであろうから、そのときに慰めてやってくれるか。沙流殿が沈んでおられると、全体の士気が落ちこんでしまうのだ。おぬしも暗いのは好かぬだろう」
だいぶ進んできたころ、とつぜん大鷹が話すのをやめ、顔をしかめて言った。「……合いの手がないというのは、どうもつまらぬな。一人きりでしゃべっているようだぞ」
明吉良は困ったようすで首を傾げた。そうは言っても、唖なのだから仕方がなかった。
大鷹は自分の腰のあたりを探り、ぶら下げていた革袋を取って、明吉良に手渡した。「開けてみろ」
言われたとおりに明吉良が小袋を逆さにすると、中から勾玉がひとつ出てきた。その白い石は、暗中でうっすらと輝きを放っていた。
「本当は、沙流殿の御前でやれと言われていたのだがな。別にいいだろう。こういうことは早く済ませたほうが、たいてい良い結果が得られるのだ」大鷹は勝手なことを言った。
明吉良は手のひらで輝く勾玉を不思議そうに見ていた。大鷹が豪快に笑って教えた。「それはおぬしの声だ。十数年前、まほろばの宮へ行くために、おぬしは声を封じられた。わしのことはわからずとも、それは覚えているだろう。玉を飲み下せ。さすれば、また口がきけるようになる」
明吉良は躊躇して、大鷹と輝く勾玉とを交互に見た。尖った先端を持つ勾玉は、飲みこんでしまうと喉を引き裂くように思われた。
「怖がることはない。平気だ。さあ、飲め飲め」大鷹の言い方はまるで酒でも勧めているようだった。
明吉良はそろそろと勾玉を口に含み、舌の上でしばらく転がしてから飲みこんだ。喉にひっかかる痛みがあったが、それは一瞬だけで、勾玉はゆっくりと明吉良の体内をすべり降りた。
ふと気づくと、彼らは奥まった広場にいた。先程まで耳にしていたはずの宴の楽の音がとても遠くに聞こえる。そこは寂しい場所で、植えられた木や彩りを添える花などは一つもなかった。
大鷹が
自分のどこかがうずくのを感じて、明吉良は身じろぎをした。後ずさろうとする彼を大鷹が押しとどめ、明吉良を神殿のほうへ仰向かせた。
「おぬしの剣だ。触れられるのはおぬしのみ。持ってこい」
その剣にはわずかな装飾もほどこされていなかった。御神体としては驚くほど質素で、実際的な品だった。ありふれた青銅ではなく、鉄でできており、光を当てれば鈍く輝いた。
大鷹に押し出されるようにして、明吉良は神殿の扉をくぐった。裸足に積もった埃の感触が伝わる。板張りの床はひんやりと冷たかった。
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