自室に戻り、人に聞かれないような奥まった場所へ桃生を連れていくまで、和可女は一言も言わなかった。だが、説教の準備がきちんと整ったが最後、その口はなかなか止まらないのだった。
「まったく、何をなさっておいでなのですか。帯壬様はお疲れなのですよ。そのくらいのことはおわかりでしょう」
「新しい妃のことをお聞きしたかったのよ」
和可女は肩を怒らせた。「湯屋に行かれる方を待ち伏せなんて、はしたないにもほどがあります」
「話していないのに、よくわかるのね。もしかして和可女もやったことがあるの?」
桃生が聞きとがめると、和可女は咳払いを一つしてごまかした。
「帯壬様が妃をいくらお迎えになろうと、姫様には関係のないことです。それで文句を申し上げるなど、もってのほかのふるまいでございますよ」
「関係はあるわ。家族なのだから。兄様に悪評がたてば、わたしにも影響があるのよ」
「姫様はじゅうぶんに悪評がたっておりますゆえ、少しぐらい悪いうわさが増えたとしても変わりはありますまい」
「まあ、ひどいわね。わたしの評判は悪くなんてないわよ」
言うと、和可女はかなり怪訝そうな顔をした。桃生はひるんだが、胸を張って言った。
「だって、やましいことは何一つしていないもの」
「本当にそう思われるのでございますか?」
「ええ」
「……そう思えるうちが花なのかもしれませんね」和可女はため息とともにつぶやいた。
攻撃の手がゆるんだのを見てとり、桃生は言うべきことを言ってしまおうと考えた。今言えば和可女の怒りを逆なでするのはわかっているが、ずっと黙ってられることではなかったからだ。後で聞かされたら、和可女はもっと気に入らなくて怒るだろう。
「わたし、今日は宵の頃になったら兄様のところに行くの。覚えておいてね」
「なぜです?」
「速津姫に会うの。どんなかたか、この目で見てくるのよ」
和可女は皺の深く刻まれた眉間を押さえた。しばらく経って、腹を決めたように桃生を見据えた。「姫様は、もう大きくおなりなのですから、ご自分の立場というものをわきまえてくださらなければ。あなたは帯壬様の妹君であって、他の何でもありません。そのことを真に自覚なさってください」
「何を言っているの」桃生はびっくりした。「妹でなければ、わたしは兄様にとって何だと言うのよ」
それは和可女にもよくわからないところだった。単純に見れば、桃生は帯壬を慕っており、帯壬も桃生をいたく気に入っている――という、貴人にはありがちな兄妹同士での恋愛図式が展開されており、たいていの者は二人の御子をそのように見ている。けれども、どこか
「妃のかたがたは、姫様の存在をたいへん好ましくないものと考えておられるのですよ」和可女はよくよく考えて、これだけ言った。「敵をつくるのは良くないことです。御身に危険が及ぶこともあるでしょう。出過ぎた真似をなさってはなりません。もちろん今宵、速津姫にお会いになられるときもですよ」
普段とはやや様子が違う和可女の説教を、桃生は静かに聞いていた。そして最後に、悩んでいるふうにたずねたのだった。
「ねえ、出過ぎた真似というのは、どういうのを言うの?」
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