闇き乙女

第一章

まほろば

 目を開けると、のぞきこんでいるのは和可女だった。その背後には中角と母がいる。柱に身をもたせかけているのは帯壬で、落ち着かないようすで外を見ていた。
「姫様。お気づきになられましたか」
 全員が一斉に桃生のほうを見た。誰もが心配そうな顔をしていたが、桃生の心はうつろで、気づくことはできなかった。皆がいる、ということだけしかわからなかった。頭の中に靄がかかったようで、何も思い出せなかった。
(どうして、わたしは寝ているのだろう……)
 いろいろと変だった。自分が寝ているのもおかしいし、桃生の部屋に皆がこうやって集まることは絶対にないといってよい。
「これは夢なの……? わたしはまだ眠っているのかしら……」
「ごめんなさい、桃生。わたしが気づかないで置いていったばかりに……きっと、ひどい目に遭ったのでしょう」
 泣きだした中角を押しとどめたのは帯壬だった。彼は桃生のかたわらに寄り添い、優しく微笑んだ。
「ああ、そうだね。桃生の言うとおり、すべては夢だ。お眠り。そして、忘れてしまいなさい」
「計算の法則とかも? 明後日、試験なのだけど……」
「いいよ、忘れて。兄様が代わりにやってあげる」
「うん……」桃生の体は疲れ切っており、目をつぶると、ぬるい眠りにひきこまれていくのがわかった。
 帯壬が桃生の頬をなでていた。それはたいへん心地よく、桃生は安心して眠ることができた。

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