桃生と青星は、夕刻になってやっと帰ってきた。館のあたりを散策するだけのつもりが、裏山にまで足を延ばしたので、桃生はすっかりくたびれきっていた。けれども、青星はまったく平気な顔だった。桃生はうらめしげなまなざしを青星に投げかけつつ、痛む足をさすって早いうちに寝床へと引き上げた。
疲労困憊していた桃生は、まぶたを閉じた瞬間に眠りに落ちた。それからは寝返りをうつことさえせず、ただ眠りに眠った──青ざめた侍女に揺り起こされるまで。
侍女はひどくあせっており、もどかしそうに目覚めない桃生を揺さぶった。やっと目を開けた桃生は、昨夜とまるっきり同じ状況に──青星はいなかったが──これは夢かといぶかった。
「逃げますよ。桃生様、逃げますよ。起きてください。早く、起きて」
そのとき、ときの声が聞こえた。無数の足音。人々の悲鳴。桃生はたちまち意識がはっきりとしてきた。「襲われているの? なぜなの?」
侍女はあわただしく桃生を立たせると、口早になにかを説明しようとした。桃生がそれを聞くことはなかった。いきなり、侍女がかん高い叫び声をあげたのだ。その目は桃生の背後に釘付けになっている──
桃生は恐れながらもふり返った。そして見つけた。心に思い描けるほど、親しんだ立ち姿を。
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