闇き乙女

第四章

大蛇

 長老が進み出て、桃生に告げた。
「そなたは神の御霊みたまに触れた。そして、受け入れることなく戻ってきたのじゃ──歴代の闇き者たちと同じ道を、そなたは選んだ。禊ぎは終わりじゃ」
 ほっとすると同時に疲れを感じて、桃生はよろよろと明吉良に倒れかかった。しかし、体を見てみれば、かすり傷ひとつ見あたらない。打ち身だってないようだし、衣も破れていなかった。
「うそ。あんなに痛かったのに」
「感じていたのは心のほうだから。何があっても、体はまったく大丈夫なんだよ」
「じゃあ、全部まぼろしだったの?」なにもかもが前と変わらなかった。化粧のほうはやや落ちていたが、これは長老におびえて冷や汗を流し続けていたせいだろう。
「表に見えていないだけで、ほんとうは傷になっている。まぼろしではないよ」
「傷って、どこに?」
「このなか」
 明吉良は桃生に触れてしめしたが、桃生にはよくわからなかった。それよりは今ここにいること、戻ってこられたことのほうが大切だった。おかしくもないのに笑いたくなってきて、桃生は声をたてて笑った。変に見えるだろうとは思いながらも、喜びがあふれて止まらなかった。
「なんでもいいわ。終わったんだものね」
「いや、これからが始まりだ」
 印色が重々しく言ったが、いまの桃生に水を差せるものではなかった。明吉良まで笑いだした。
 長老は感慨深げに言った。「天つ血をひくものは、神に拒まれるのがさだめと言われておる。しかし、神々だけでなく、天つ者のほうも拒んでおるのじゃよ。神の御霊をその身に受け入れるのを、のう。神々はそなたらを葬らんとする。そなたらは戦う。そうして、とり殺されずに戻ってこれるかこれないかが──天つ神と天つ人との分かれ目じゃ。まあ、それは素質によるところが大きいのでな、たいていは予想のとおりじゃよ」しかし、二人が聞いているかどうかは怪しかった。
 桃生は笑い転げながら、距離を隔てた向こうからも、喧噪が聞こえてくるのに気がついた。それは祭りの騒がしさだったが、桃生の耳にはそれまで入ってこなかったのだ。ずっと沈黙の闇が続いていると思っていたのに、実はそうではなかったことが、やたらにおもしろおかしくて、桃生はさらに笑った。

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