にぎわいが単なる騒がしさへと変わるころ、彼らは暇乞いをして引き上げた。主賓がいなくなっても、座敷のもようは変わらずに続いている。その喧噪を背中に聞きながら、桃生は印色を見上げた。
「本当にあれで良かったのですか? 軽く見られた気がするのですけど」
「それでいいのだ。なかなかうまい芝居だった」
「あ、褒めた。しかと聞きましたからね。もし失敗したときは、わたしじゃなくて、印色殿の筋書きのせいですよ」桃生は笑ったが、まだ例の化粧面だったために妙な顔になった。
「ああもう、べたべた。寝るときくらいは、いくらなんでも落としますよ。止めても無駄ですからね」
印色は「外をふらつくなよ」と答え、それは以前より冷たさの薄らいだ物言いだった。今日に至るまでの
大鷹はいかにも陽気な赤い顔をしており、飲んでいるのは明白だった。明吉良もそれにつき合わされたようで、足どりがふらふらしている。桃生は明吉良が転ばないように手をひいてやった。桃生が部屋に戻ると、すっかり馴染みとなった『顔づくり』の侍女らが待ち受けていた。桃生の化粧を落として寝る支度をさせ、やることをすませると、彼女たちはさっさと引き上げていく。ひとり残された桃生はしばらくぽつねんとしていたが、ためらいながらも追い立てられるようにして立ち上がった。
桃生が顔をのぞかせると、青星はすぐにふり向いた。いつもと変わらぬ静かな表情だったが、なんとなく迷惑そうである。
「今日も?」
「減るものではなし。いいでしょう」桃生は強引に押し切り、追い出されないうちにと、夜具のあいだに身をすべらせた。
「桃生がいると、そのぶんが狭くなるんだよね」青星はあきらめ気味に言って身体を横にずらした。
青星の言うとおり、二人で一つのふとんに寝るのはさすがに窮屈だった。桃生は背が低くて痩身だが、幼児ほど小さいというわけではない。上掛けはいっぱいいっぱいで、少しでも動くと足がはみ出る。
ふとんをとったりとられたり、何回かそれを繰り返したのち、青星が起きあがった。青星は、部屋の隅に片づけてあったものをとって戻ってきた。見れば、それは上掛けだった。
「青星ったら、用意がいいのね」美和では青星の夜具に上掛けをこっそりもう一枚まぎれこませてあったのだが、まさか旅先のここでも同じようにしているとは思わなかった。
「邪魔しているのは桃生なんだから、桃生が用意してくるのがすじなのよ。感心していないで次からは持参してきなさいよ」
「いやよ。もしだれかに出会ってしまって、そんなものどうするのかと聞かれたら、何と答えればいいの?」
「桃生はどうして一人で寝ないの」青星がふとたずねた。いらだちのあまりというよりはふしぎからのようだった。
桃生が青星のところへ夜這いのごとく通うようになったのは、あの祭りから数日経ってのことだった。神経がきめ細やかでない青星は不平を言いながらも特に気にせず、桃生をそのままに受け入れてきた。
毎夜の行動の答えはどう言いつくろってみても一つしかなく、意地っ張りな少女がすなおに告白するはずがなかった。桃生は青星に背を向け、たぬき寝入りを決めこんだ。
青星は、深く追求するつもりではなかったのか、黙って横になった。間もなくすると青星は寝入ってしまい、規則正しい寝息が聞こえてくる。それを聞いているうちに、桃生もいつしかまぶたが落ちてきた。
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