桃生は跳ね起きた。顔だけでなく体中から汗が噴き出していて、じっとりと濡れている。(落ちつけ……あれは夢なのよ。ただの夢。わたしはいま起きている。なにも怖がることなんてない……)
桃生の隣では青星が安らかな寝息をたてている。桃生はほっと息をついた。
荒くなった呼吸を静めて、桃生ははねのけた上掛けをかぶった。夢は夢でいやなものだったが、こうやって一人で起きているのもつらい。桃生は青星をたたき起こしたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢して固く目を閉ざした。
(なぜ、急にこんな臆病になってしまったのだろう。ひとりで夜を過ごせなくなったのだろう……)桃生はくやしさに歯がみしたが、ふとそうではないことに気がついた。(……いえ、急なんかじゃないわ。わたしはずっと怖かった。夜が、迫ってくる闇が恐ろしかった。いままで平気だったのは、それほど強く自覚していなかったからだ)でも、あの『禊ぎ』がそれを変えた。かすかに感じる程度でしかなかったものを、桃生の目前へ、はっきりとしたかたちで引きずり出した。
(あの婆は、天つ神は御霊を拒むのが
桃生は起きあがって青星を見つめた。その寝顔は健やかで、気持ちよさそうだった。桃生が脅えているのとは裏腹に、この闇こそが青星にとってはくつろげる空間なのだった。
なぜだろうと桃生は思った。なぜ、これほどまでの隔たりがあるのか──
御霊がなんなのか、桃生には正直なところ、わからない。神秘をまとった、とてつもなく強大なものだということが感じとれるだけだ。だから、あのとき自分が拒んだ理由もなぞだった。あのときは、なにかが許せなくていやだったのだが──それがなんだったのか、桃生は忘れてしまった。なにを守ろうとしたのか、忘れてしまった。
(あのとき甘んじてさえいれば、こういう目に遭わずに……夜に脅えることもなくて済んだのかな……)後悔の念に沈んだとき、桃生ははっとひらめいた。(印色殿は。あの人も天つところの者だわ。どうなのだろう、あの人も夜が怖かったりするのかしら)
桃生は誘われるようにして起きあがった。なぜそんな芸当ができたのかというと、恐怖のあまり神経が麻痺していたのかもしれない。もの憑きのような足どりで、桃生はふらふらと部屋を出た。
御霊とはなにか、知りたかった。そして、その問いよりももっと──彼が、なにを思って国つ側に傾いたのか、面と向かって聞いてみたかった。桃生は印色に近づいており、彼の内面が気にかかるほど親しくなっていたのだった。印色はたぶん答えてくれるだろう。疑いを差し挟む余地はなかったし、そうする必要もなかった。
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