頭が真っ白になる。
(これは夢なの? わたしはまだ寝ているの? こんなことがあるはずがない。あり得ない。きっと夢だわ。そうに決まっている。そうよ……でも……でも、もしかしたら……)もしかしたら、これまでのことこそが夢だったのかもしれない。拐かされたことも、闇き者とまつられたことも、全部。願わくば、そうであって欲しかった。桃生が望むのはいつだって何があったって、あそこしかなかったのだから。
桃生はふるえながら手を伸ばした。起こしてみればわかることだ。やはり夢で目覚めるのか、それとも……
桃生の手が触れそうになったとき、相手はすばやい身ごなしで起きあがった。それに驚く間もなく、桃生の喉もとにきらめく刃が突きつけられる。桃生は凍りついたが、相手もまた驚愕して固まっていた。
「刺客かと思った」剣を鞘におさめる手つきはぞんざいだった。少なからず動揺しているようで、顔はうつむいたきり上げようとしない。
目覚めて動いているのを見れば、それは帯壬ではなかった。まるっきりの別人だ。でも、とてもよく似ている。決して、暗がりの中の見間違いではない。
「その声は……印色殿なのですか? どうして……」
ぎょっとしたことに、彼は笑いだした。胸にずしりとくるような、激しさを含んだ笑い声だった。
「見たのだな」
「はい……」桃生は縮こまって答えた。
印色は笑うのをやめた。狂人めいたところは消えて、いつもの冷徹さを取りもどしている。しかし、鼻筋の通った美しい顔だちは、儚げで傷つきやすそうに見えた。素顔の印色は、ずいぶん若かった。
「あれとは、母も父も同じなのだ。だから、わたしはこんな顔をしている。どうしようもないことだ」
桃生は弾かれたように立ち上がった。「そうなのですか、わたし……あの、ごめんなさい。勝手に入ったりして」
桃生は一目散に部屋から逃げだし、回廊の曲がり角で人とぶつかりそうになった。それは明吉良だった。
「よかった。みんなで探していたのだよ。みんなといっても、ぼくと大鷹殿と青星だけれど。青星が、桃生がいないって騒ぐものだから──」
「明吉良。母も父も同じ人がいたら、それはなんだと思う?」
明吉良は無邪気そうに笑った。「兄弟だろう。ぼくでも、そのくらいはわかるよ」
(兄弟──)桃生はめまいがした。
「ごめん。わたし、倒れる」
「桃生」明吉良はあわててくずおれる桃生を支えた。宣言したとおり、桃生はしっかりと気を失っている。
「ちょっと。なにやってるのよ」
青星がやってきた。明吉良は桃生を抱えながら、途方に暮れた顔でふり返った。
「母も父も同じ人は兄弟だろうって言ったら、桃生が倒れた」
「なにそれ」青星は顔をしかめた。
「わからない」
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