闇き乙女

第五章

 教えてもらった温泉は、こぢんまりとして、非常に地味な感じだった。周囲には、枯れた草木が雪をかぶって立ちならんでおり、景色もよくない。
「期待はずれ」桃生はため息をついた。「もっと大きいのがよかったわ。小さいのならせめて、滝が流れるとか、見晴らしがいいとか、どこか長所があるべきよ」
「温まればいいんだよ」青星はにべもなく言った。
 本当は、大きくて滝がごうごうと流れ、そのうえ絶景という温泉もあるらしいのだが、目立って危ないと言われてやめにした。青星は、いちばん目立たない場所にある、小さくて、だれも来ないような温泉の場所をたずねた。そうしたほうが安全だからだ。しかし、桃生が知ったら、きっとうるさくなるので内緒にしている。
 温泉のふちに立ち、覗きこんでいると、あふれ出た湯が足元に押しよせた。ぬくもりが爪先から伝わってくる。ほかほかと立ちのぼる湯気も、冷えた身体に心地よかった。
「まあ、こんなのでも温泉は温泉ね」
 桃生は思い直したように言うと、上着の紐をいそいそとほどき始めた。青星も髪留めをはずし、長い髪が肩に落ちたが、突然はじかれたように後ろをふり返った。
「音がした」
「動物じゃない? 気にすることないわ」
「いちおう確かめてくるよ。敵の兵士だったら大変だし」
 自分が戻ってくるまで温泉には入らないようにと釘を差し、青星は木の陰に消えた。
 桃生はしばらく待っていたが、ふんわりと漂ってくる暖かな空気に抗しきれず、とうとう結び直した紐にふたたび手をかけた。しかし、紐をほどいて、上着を脱ごうとしたとき、彼女ははたと動きを止めた。
(まずい。忘れていた……)

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